「…これは…」
金庫へ続く道を少し外れ、奥の資料を保管してある部屋へ入ったエドワード。そこでみたものは大量の箱。
1つの箱を用心深く開けてみるとそれは大量に敷き詰められていた。
勿論軍人であるエドワードは何度もみたことのあるもの―火薬。
火薬のみならば特に武器としての使い道はない。
勿論、加工する、もしくは火薬での爆発効果をあげるため、気体中の物質をかえることができれば使い道は莫大なものがあるが。
「…」
エドワードは全ての箱の中身が火薬であると確認すると金庫へと向かった。
おそらく犯人の狙いは…。
彼の日常
「大佐!人質を全員保護しました」
現場につくといきなりその言葉。てっきりすでに犯人を確保したのかと思い、彼の姿を探したが彼はいない。
「…どういうことだ?」
「人質の話によりますと、その…エルリック少将が逃がしてくれた、と…」
「その人質をここに連れて来い」
「Yes,sir」
一番冷静且つ、詳しく証言できる人質がロイのもとへと連れてこられた。
銀行の職員らしく、どうやらエドワードが電話したときに最も近くにいたらしい。
「エドワード・エルリック少将についてのことですか?」
「彼も勿論、中の現場についてお話できますか」
「あ、はい。犯人は10人足らずだったと思います。我々職員がつかっている管理室に人質全員を押し込めました。そのときに支配人だけが連れて行かれて」
「支配人とは?」
「銀行の管理職を担当しているお方です。一番奥の金庫には支配人しか入れないのでおそらく彼だけが…」
「奥の金庫には一体何がはいっているのかお伺いしても?」
少し戸惑うような表情をみせた後、彼は小さくうなづいた。
「あまり私も詳しくはないのですがお得意様の大切な財産や、貴重な書類、勿論宝石関係やお金など高価なものも入っているときいています」
自分は実際に入ったことがないので確証はもてない、と苦笑交じりに男は言った。
きっと犯人たちは銀行から逃げたあとの資金を調達するために金庫へ入ったのだろう。
となると一番危ないのはその支配人。そして―彼。
「ご協力感謝します」
少しばかり疲労の色が伺える目の前の人物に一礼するとロイは現場の指揮にあたっていたブレダのところへと急いだ。
「マスタング少将!お疲れ様です!」
「ああ、犯人たちの状況は?」
ブレダは銃を地面へと下ろすと小さくため息をついた。
「人質は1名を除き、逃げ出せたようなのですがその1名というのがまだ…」
「…1名というのは?」
「なんつーか…人質にされてた市民はエルリック少将って証言してるんですけど…」
疑いをもった表情で犯人たちがたてこもっている銀行へ視線をおくるブレダ。
それもそのはずだろう。軍人である彼が休日にまで強盗に巻き込まれるなど偶然にもほどがある。
「エドワードが中にいるのは本当だ」
「へ?」
「それと彼のほかにもう一人犯人に拘束されている人質がいる。この銀行の支配人に当たる人物だ」
「…まじですか」
「人質がでてきた、という場所へ案内しろ!すぐにだ」
「Yes,sir!」
地面に置かれた銃をもう一度肩へかけるとブレダは現場の指揮を少しはなれ、銀行の裏へとまわった。
「…ここか?」
「…はぁ、多分」
目の前にあるのは壁。さすがに銀行というべきかセキュリティがすごいというか…。
ただ大きな壁があるだけで窓もドアも何一つない。
この銀行には正面玄関と唯一職員がつかう非常用ドア、そして車で荷物を搬送する場合の大きな、しかし常時閉じている門からしか入れない。
つまり四方八方壁でふさがれているのだ。
「…中から錬金術で閉じたのだろうな。ブレダ、お前は戻り指揮にあたれ。
犯人が何かを指示してきても時間を稼ぐんだ。人数が足りないのであればハボックの部隊をまわせるよう手配しておけ。これは上官命令だ」
「あの…少将は」
「ここから入る。犯人が動かない今、こちらから行動を移さなければ人質の命が危ない」
「しかし…」
「上官命令だといったはずだ」
鋭い眼光でにらみつけられ、敬礼するとブレダは走りさった。
近くに落ちていた石を壁へと宛がう。
ゆっくりと練成陣を描きながら中の構造を思い出す。人質が捕らわれていた場所が管理室ならこの壁の向こうは管理室。
そして地下の奥は金庫。彼は一体どこまで行っているだろうか。
気配を消して、奥のほうまで進んでみたもののやはり位置感覚がよくつかめない。
そんな時、数名の声がきこえてきた。エドワードは壁へと体をつけると様子を伺った。
「準備はできているか」
「勿論です。軍人たちもかなりの数が到着したようですし」
「人質の見張りを頼んだ奴らはどうするんですか」
「あんな奴らはどうせこれからも使い物にならねえよ」
3名の犯人と思われる人物、そして犯人たちの中心にいる支配人は1つの部屋の前で立ち止まっていた。
おそらくそこが金庫なのだろう。
支配人と思われる人物は金庫の暗証番号を入力している最中だ。
エドワードは小さくため息をつき、壁からはなれた。
「そこまでだ」
「…お前は?」
驚いたそぶりをみせるわけでもない、犯人のうちの一人はゆっくりとエドワードを見据えた。
「お前たちがやろうとしていることは大罪だ」
「…正義感のある市民ってとこですか。さしずめこの支配人を助けにきたんだろう」
支配人へと銃を向けると犯人はわざと威嚇するようにカチャリと防御装置をはずした。
「た、助けてくれ!!」
「お前はさっさと金庫をあければいいんだよ」
銃を突きつけながらもおもしろそうに犯人たちは笑う。そして目の前にいるエドワードをよく観察する。
何の緊張感ももたず、その状況を楽しむかのように。
「へぇ、珍しい瞳の色をしているねぇ兄ちゃん。金色か。金髪だったらあれだ、あの有名な国家錬金術師様と同じ風貌じゃねえか」
主格である男は銃をエドワードへと向けながらゆっくりと歩み寄る。
そして顎をつかむと上へと向かせた。
「綺麗な顔をしてるじゃねえか。その瞳の色ならやっぱ金髪のほうが似合いだぜ」
練成により、黒く染めている彼の髪をすくうように手に取ると顔をエドワードへと近づける。
「…手加減はなしだな」
すこし楽しげな声でそういうとエドワードはさっと両手をついた。
突きつけられていた、しかし隙だらけの銃を錬金術により分解すると、男に驚く暇も与えず床へと眠らせた。
「お前錬金術師か!?」
「くそっ」
残った犯人たちはエドワードへ発砲しようと狙いを定めるがそこに彼の姿はない。
目で彼を追おうと横をむいた瞬間、大量の水に襲われた。
「うわっ!!た、たすけてくれ!!!」
激しい水の噴射により、壁に激突すると犯人たちはそのまま気を失った。
「ここ便利だなー。地下水道と繋がってるから水にはこまらねえし」
練成したばかりの水泡をたたくと気を失っている犯人たちに近づき、その手に握られていた銃を1つ1つ回収した。
そしてもう一度両手をあわせ、それらを分解するとエドワードはこちらをみている男に向き直った。
「大丈夫か?」
呆然としている目の前の人物に手を差し伸べると我に返ったのか慌てて頭をさげた。
「あ、ありがとうございます!!あなたは…」
エドワードは髪の色素を元の金髪へと戻すとにっこりと微笑んだ。
「エドワード・エルリック。今日は一般市民としてここにきたつもりだったけど」
「…あなたが…あの国家錬金術師…」
驚きと感心の視線をむける男にエドワードは小さくため息をつき、表情をかえた。
そして、犯人たちへ向けた言葉と同じような威圧に満ちた声で問いかけた。
「さて、きかせてもらおうか」
「…はい?」
優しい笑みでも、何かに怒りを感じているわけでもなく、彼はただ静かに続ける。
「こいつらが金庫へ入ろうとしたのは何故だと思う?」
一言一言が重みをもつ―彼の発する言葉にはそれがあった。
「…金庫から金を盗んで逃走したあとの資金に困らないようにするため…じゃないんですか」
まっすぐと見据えてくるエドワードに少し、居心地の悪さを感じたのか男は目を逸らし、したを向いた。
「違うな。自分たちの安全である場所を確保するためだ」
男は一瞬表情を強張らせたがすぐに戻すと顔をあげた。
「どういう意味です?」
「そうだな…例えば、ここで大きな爆発があってもその金庫ならばほぼ無傷でいられるだろう。水素爆弾なら尚更のことだ」
「…何故水素爆弾と?」
「それが一番効率がいいだろう?もし、犯人たちの仲間に気体を操る錬金術師がいれば、の話だが」
全てを見透かしたその瞳でもう一度エドワードは男の表情を伺った。
男が浮かべていたのは―微笑
「…噂どおり素晴らしく頭のいいのお方だ」
「そりゃどうも」
男は室内を見渡し、両腕を広げる。
「…この金庫の中に何がはいっているか想像できますか?」
何がおかしいのか肩を振るわせ、クックと笑う男は狂人にでさえみえた。
「大量のリチウムです。そしてあなたが先ほどつかった錬金術のように地下にある水をくみ上げて溶解させれば大量の水素が生み出される。空気中にそれを充満させ、尚且つ大量の爆薬をしかけると…」
手をのばし、彼をあざ笑うかのように男は続ける。
「ドカン、といくでしょう?誰も予想もしない、すばらしい芸術作品が生まれる」
静かに男は笑った。